ベトナム e インボイス顔認証義務化:対応実務ガイド
2026年5月15 から、ベトナムで e インボイスを新規登録する際、又は法定代表者(LR)情報を変更する際、LR の生体認証(顔認証)が義務化された。生体認証は VNeID レベル 2 アカウントを前提とし、VNeID レベル 2 は一時在留カード(TRC)を、TRC は労働許可(WP)等の在留資格を前提とする。この連鎖により、外国人 LR の在留資格が e インボイス登録の前提条件となった。

新規設立の外資企業は、ERC 取得後・インボイス発行前に e インボイス登録が必須となる。外国人 LR が VNeID レベル 2 を取得していない場合、後述の免除ルート(第 3 章)を用いることで登録を進められる。
e インボイス生体認証制度の概要
| 項目 | 内容 |
| 根拠 | 通達 3078/CT-NVT(税務局、2026-05-15 発出・適用) |
| e インボイス政令 | Decree 70/2025/NĐ-CP(Decree 123/2020 を改正、現行) |
| 登録様式 | 申告書 01/ĐKTĐ-HĐĐT(Decree 70/2025 附属書 IA) |
| 対象手続 | e インボイスの新規登録、及び LR 情報の変更 |
| 原則 | 法定代表者の顔認証(eTax Mobile + VNeID レベル 2) |
| 期限 | 申請後 1 日以内に認証未完了 → 申請却下(原則ルート) |
| 外国人免除 | VNeID レベル 2 を未取得の外国人 LR は生体認証 免除 |
| 目的 | ペーパーカンパニー・架空インボイス・脱税の防止 |
| ℹ 補足 ベトナムは 2025 年の行政再編で Tổng cục Thuế(税務総局)を Cục Thuế(税務局)に改組。通達 3078/CT-NVT の発出機関は現行の「税務局」。 | |
通達 3078 免除ルート(外国人 LR 向け)
免除の根拠・条件
通達 3078/CT-NVT は、生体認証を要する者を「企業・組織・事業世帯・個人事業主の法定代表者」と定めつつ、次の例外を置く:
| 【原文の趣旨】
生体認証の対象 = 法定代表者 ただし、外国人で VNeID レベル 2 の電子身分認証要件を所管当局のロードマップに従ってまだ満たしていない者は対象外とする。 (Trừ trường hợp là người nước ngoài chưa đáp ứng quy định về định danh điện tử mức độ 02 theo lộ trình của cơ quan chức năng.) |
■ 免除の適用判定
| 要件 | 判定 |
| LR が外国人である | → 該当すれば免除候補 |
| LR が VNeID レベル 2 を未取得 | → 該当すれば免除対象 |
| 上記いずれも該当 | → 生体認証 免除、e インボイス登録を進行可 |
新規設立直後の外資企業は、外国人 LR がまだ TRC・VNeID レベル 2 を取得していないのが通常であり、本免除ルートの適用対象となるケースが多い。
免除の時限性 ─ 将来は遵守が必要
免除は「所管当局のロードマップに従ってまだ要件を満たしていない者」への【当面措置】で恒久免除ではない。外国人向け VNeID レベル 2 の整備が進めば最終的に生体認証遵守が求められる。企業は LR が TRC → VNeID レベル 2 を取得した段階で生体認証へ移行する(第 5 章)。
e インボイス登録の標準工程(ERC 取得後)
新規設立企業が e インボイス登録を完了するまでの標準的な工程。インボイス発行開始の予定時期から逆算して着手する。
| 段階 | アクション | 担当(目安) |
| 事前 | 所管省税務支局へ免除手続を照会(解釈 A/B 確定) | ベトナム弁護士 |
| ERC 取得 | 企業登録証 取得 → 税コード付与 | ベトナム弁護士 |
| ERC 直後 | デジタル署名取得契約 | 企業 |
| ERC 直後 | 銀行口座開設、税コード有効化 | 企業 |
| 登録 | e インボイス登録申請(申告書 01/ĐKTĐ-HĐĐT)提出 | 経理 + ベトナム弁護士 |
| 登録 | 外国人 LR 免除手続 | LR + ベトナム弁護士 |
| 登録後 | e インボイス発行体制テスト | 経理 |
| 完了 | インボイス発行 開始 | 企業 |
| ⚠ 注意: e インボイス登録には デジタル署名・税コード有効化 が前提となる。インボイス発行予定日から逆算し、ERC 取得 → デジタル署名 → e インボイス登録 を余裕をもって配置すること。ERC の遅延がボトルネックになりやすい。 | ||
生体認証への移行(免除後の本対応)
免除は当面措置。外国人 LR が在留資格を整え次第、生体認証に移行する。下記が第 2 段階のフロー。

VNeID / TRC / WP 取得フロー詳細
取得順序の全体像
3 つの手続は順番に積み上がる。WP が起点、VNeID レベル 2 が終点。

WP(労働許可)取得フロー
| 項目 | 内容 |
| 根拠 | 政令 219/2025/NĐ-CP(2025-08-07 公布・施行、旧 152/2020 置換) |
| 発給機関 | 省人民委員会 / 省労働局(DOLISA) |
| 有効期間 | 最長 2 年 |
| Decree 219 改善点 | 書類一本化、処理短縮、年間 90 日累計までの短期就労は WP 不要 |
■ 手続ステップ
- 雇用主企業が外国人雇用需要を説明 + WP 申請(様式 No.03、政令219 附属書)
- WP 申請書類一式を提出(政令 219 で統合手続化)
- DOLISA / 省人民委員会 が審査・承認
- WP 発給(最長 2 年)─ 無犯罪証明は国家公共サービスポータルでWP と同時申請可
■ 必要書類
・企業書類(IRC / ERC、定款、紹介状)
・申請者パスポート + 規定写真
・学歴・職歴証明(学位、職歴証明書、資格証)─ 領事認証/Apostille + VN訳
・健康診断書(VN 認定医療機関)
・無犯罪証明(本国 + VN、WP と同時申請可)
| ⭐ WP 免除 出資者・一定の役員等は WP 免除(政令 219)。該当時は WP の代わりに「WP 免除確認書」を取得 → 工程を短縮できる。雇用される総社長(出資者でない)は原則 WP 必要。免除該当性は VN 弁護士に早期確認を。 |
TRC(一時在留カード)取得フロー
| 項目 | 内容 |
| 前提 | WP(又は WP免除確認)/ 投資家ビザ 等 |
| 発給機関 | 省出入国管理局 |
| 有効期間 | WP / ビザ期間に連動(最長 2 年) |
| 所要 | 申請後 約 5〜10 営業日 |
■ 手続ステップ
- 適切なビザ(労働ビザ等)で入国、又はビザ種別を調整
- TRC 申請書類を準備(パスポート、WP、企業書類、申請様式、規定写真)
- 省出入国管理局へ申請
- TRC 発給・受領
VNeID レベル 2 取得フロー
| 項目 | 内容 |
| 前提 | 有効な TRC または PRC + 本人名義のベトナム携帯番号 |
| 発給機関 | 公安省傘下 出入国管理局 / 省公安窓口(対面必須) |
| 必要書類 | パスポート、TRC/PRC、様式 TK01(政令 69/2024/NĐ-CP) |
| 所要 | 生体データが国家DBに既存 → 3営業日 / 新規 → 7営業日 |
■ 手続ステップ
- 出入国管理局・省公安窓口を訪問、整理番号を取得
- 顔写真を窓口で撮影
- 書類提示(パスポート + TRC + 様式 TK01)、情報提供フォーム記入
- 生体データ(指紋)を提出
- 申請を当局へ提出
- 結果を VNeID アプリ / 電話 / メールで受領 → アカウント有効化
| レベル 1 | レベル 2 | |
| 内容 | 基本情報のみ(ID番号・氏名・生年月日 等) | 指紋生体認証を追加 |
| 登録方法 | VNeID アプリで可 | 本人が窓口へ出頭(対面必須) |
| 用途 | 限定的 | 銀行認証・公共サービス・eTax Mobile 等 |
| ⚠ 重要 VNeID レベル 2 は TRC 保有が絶対要件。非居住者(在留カードなし)・短期ビザのみの外国人は登録不可。レベル 2 は対面のみ(アプリ完結不可)。 | ||
所要期間まとめ
| ステップ | 単体所要 | 累計目安 |
| ① WP(書類準備含む) | 約 1〜2 ヶ月 | 1〜2 ヶ月 |
| ② TRC | 約 5〜10 営業日 | + 約 2〜3 週間 |
| ③ VNeID レベル 2 | 約 3〜7 営業日 | + 約 1〜2 週間 |
| 合計(WP ルート) | — | 約 2〜3 ヶ月 |
| 合計(WP 免除ルート) | — | 約 1〜2 ヶ月(短縮) |
| ⭐ 実務上の含意 設立直後に外国人 LR が VNeID レベル 2 を取得するには 2〜3 ヶ月を要する。インボイス発行が早期に必要な場合は、まず免除ルート(第 3 章)で e インボイス登録を完了し、その後に本フローを完了して生体認証へ移行する 2 段階アプローチが現実的。 | ||
法定代表者の居住要件(企業法 第12条)
e インボイスとは別に、企業法上、最低 1 名の LR が VN に居住する必要がある。事業開始時点で、この要件を満たす体制が必須。
| 規定 | 内容 |
| 企業法 第12条第3項 | 常に最低 1 名の LR が VN 居住 |
| 単独 LR | VN 居住者でなければならない |
| 非居住者を LR に | 単独不可。VN 居住 LR をもう 1 名置く(複数 LR) |
| 30 日超の不在 | 単独 LR が 30 日超 VN 不在 + 代理人未指定 → 新 LR 任命義務 |
| ⚠ 重要論点 事業開始時点で VN 居住の LR が 1 名以上必要。本国在住者のみを単独 LR とする構成は企業法違反となり得る。複数 LR 構成(VN 居住者 1 名 + 本国在住者)を検討すること。e インボイス生体認証の観点からも、VN 居住・TRC 取得が容易な人物を LR にするのが有利。 | |
実務チェックリスト
| # | 確認・アクション項目 | 時期 |
| 1 | 所管省税務支局へ外国人 LR の免除手続を照会(解釈 A/B 確定) | ERC 取得前 |
| 2 | LR 構成が企業法 第12条(VN 居住 LR 1 名以上)を満たすか検証 | 設立準備時 |
| 3 | ERC 申請・取得(税コード付与) | 設立フェーズ |
| 4 | デジタル署名・銀行口座開設・税コード有効化 | ERC 直後 |
| 5 | e インボイス登録申請 + 外国人 LR 免除手続 | インボイス発行前 |
| 6 | e インボイス発行体制テスト | 登録後 |
| 7 | 外国人 LR の WP 免除該当性を確認(政令 219/2025) | 設立フェーズ |
| 8 | WP / WP免除 → TRC → VNeID レベル 2 取得(第 6 章フロー) | ERC 後 数ヶ月 |
| 9 | 生体認証へ移行(免除の本対応) | VNeID L2 取得後 |
出典・参考リンク
・通達 3078/CT-NVT(税務局、2026-05-15)
・政令 70/2025/NĐ-CP(e インボイス、政令 123/2020 改正)
・政令 219/2025/NĐ-CP(外国人労働者、2025-08-07)
・政令 69/2024/NĐ-CP(電子身分認証、様式 TK01)
・企業法 2020(法令59/2020/QH14)+ 改正法 76/2025/QH15
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