ベトナム e インボイス顔認証義務化:対応実務ガイド

2026年05月29日 作成

2026年5月15 から、ベトナムで e インボイスを新規登録する際、又は法定代表者(LR)情報を変更する際、LR の生体認証(顔認証)が義務化された。生体認証は VNeID レベル 2 アカウントを前提とし、VNeID レベル 2 は一時在留カード(TRC)を、TRC は労働許可(WP)等の在留資格を前提とする。この連鎖により、外国人 LR の在留資格が e インボイス登録の前提条件となった。

新規設立の外資企業は、ERC 取得後・インボイス発行前に e インボイス登録が必須となる。外国人 LR が VNeID レベル 2 を取得していない場合、後述の免除ルート(第 3 章)を用いることで登録を進められる。

e インボイス生体認証制度の概要

項目 内容
根拠 通達 3078/CT-NVT(税務局、2026-05-15 発出・適用)
e インボイス政令 Decree 70/2025/NĐ-CP(Decree 123/2020 を改正、現行)
登録様式 申告書 01/ĐKTĐ-HĐĐT(Decree 70/2025 附属書 IA)
対象手続 e インボイスの新規登録、及び LR 情報の変更
原則 法定代表者の顔認証(eTax Mobile + VNeID レベル 2)
期限 申請後 1 日以内に認証未完了 → 申請却下(原則ルート)
外国人免除 VNeID レベル 2 を未取得の外国人 LR は生体認証 免除
目的 ペーパーカンパニー・架空インボイス・脱税の防止
ℹ 補足  ベトナムは 2025 年の行政再編で Tổng cục Thuế(税務総局)を Cục Thuế(税務局)に改組。通達 3078/CT-NVT の発出機関は現行の「税務局」。

通達 3078 免除ルート(外国人 LR 向け)

免除の根拠・条件

通達 3078/CT-NVT は、生体認証を要する者を「企業・組織・事業世帯・個人事業主の法定代表者」と定めつつ、次の例外を置く:

  【原文の趣旨】

  生体認証の対象 = 法定代表者

  ただし、外国人で VNeID レベル 2 の電子身分認証要件を所管当局のロードマップに従ってまだ満たしていない者は対象外とする。

  (Trừ trường hợp là người nước ngoài chưa đáp ứng quy định về định danh điện tử mức độ 02 theo lộ trình của cơ quan chức năng.)

■ 免除の適用判定

要件 判定
LR が外国人である → 該当すれば免除候補
LR が VNeID レベル 2 を未取得 → 該当すれば免除対象
上記いずれも該当 → 生体認証 免除、e インボイス登録を進行可

新規設立直後の外資企業は、外国人 LR がまだ TRC・VNeID レベル 2 を取得していないのが通常であり、本免除ルートの適用対象となるケースが多い。

免除の時限性 ─ 将来は遵守が必要

免除は「所管当局のロードマップに従ってまだ要件を満たしていない者」への【当面措置】で恒久免除ではない。外国人向け VNeID レベル 2 の整備が進めば最終的に生体認証遵守が求められる。企業は LR が TRC → VNeID レベル 2 を取得した段階で生体認証へ移行する(第 5 章)。

e インボイス登録の標準工程(ERC 取得後)

新規設立企業が e インボイス登録を完了するまでの標準的な工程。インボイス発行開始の予定時期から逆算して着手する。

段階 アクション 担当(目安)
事前 所管省税務支局へ免除手続を照会(解釈 A/B 確定) ベトナム弁護士
ERC 取得 企業登録証 取得 → 税コード付与 ベトナム弁護士
ERC 直後 デジタル署名取得契約 企業
ERC 直後 銀行口座開設、税コード有効化 企業
登録 e インボイス登録申請(申告書 01/ĐKTĐ-HĐĐT)提出 経理 + ベトナム弁護士
登録 外国人 LR 免除手続 LR + ベトナム弁護士
登録後 e インボイス発行体制テスト 経理
完了 インボイス発行 開始 企業
⚠ 注意:  e インボイス登録には デジタル署名・税コード有効化 が前提となる。インボイス発行予定日から逆算し、ERC 取得 → デジタル署名 → e インボイス登録 を余裕をもって配置すること。ERC の遅延がボトルネックになりやすい。

生体認証への移行(免除後の本対応)

免除は当面措置。外国人 LR が在留資格を整え次第、生体認証に移行する。下記が第 2 段階のフロー。

VNeID / TRC / WP 取得フロー詳細

取得順序の全体像

3 つの手続は順番に積み上がる。WP が起点、VNeID レベル 2 が終点。

 

WP(労働許可)取得フロー

項目 内容
根拠 政令 219/2025/NĐ-CP(2025-08-07 公布・施行、旧 152/2020 置換)
発給機関 省人民委員会 / 省労働局(DOLISA)
有効期間 最長 2 年
Decree 219 改善点 書類一本化、処理短縮、年間 90 日累計までの短期就労は WP 不要

■ 手続ステップ

  1. 雇用主企業が外国人雇用需要を説明 + WP 申請(様式 No.03、政令219 附属書)
  2. WP 申請書類一式を提出(政令 219 で統合手続化)
  3. DOLISA / 省人民委員会 が審査・承認
  4. WP 発給(最長 2 年)─ 無犯罪証明は国家公共サービスポータルでWP と同時申請可

■ 必要書類

  ・企業書類(IRC / ERC、定款、紹介状)

  ・申請者パスポート + 規定写真

  ・学歴・職歴証明(学位、職歴証明書、資格証)─ 領事認証/Apostille + VN訳

  ・健康診断書(VN 認定医療機関)

  ・無犯罪証明(本国 + VN、WP と同時申請可)

⭐ WP 免除  出資者・一定の役員等は WP 免除(政令 219)。該当時は WP の代わりに「WP 免除確認書」を取得 → 工程を短縮できる。雇用される総社長(出資者でない)は原則 WP 必要。免除該当性は VN 弁護士に早期確認を。

TRC(一時在留カード)取得フロー

項目 内容
前提 WP(又は WP免除確認)/ 投資家ビザ 等
発給機関 省出入国管理局
有効期間 WP / ビザ期間に連動(最長 2 年)
所要 申請後 約 5〜10 営業日

■ 手続ステップ

  1. 適切なビザ(労働ビザ等)で入国、又はビザ種別を調整
  2. TRC 申請書類を準備(パスポート、WP、企業書類、申請様式、規定写真)
  3. 省出入国管理局へ申請
  4. TRC 発給・受領

VNeID レベル 2 取得フロー

項目 内容
前提 有効な TRC または PRC + 本人名義のベトナム携帯番号
発給機関 公安省傘下 出入国管理局 / 省公安窓口(対面必須)
必要書類 パスポート、TRC/PRC、様式 TK01(政令 69/2024/NĐ-CP)
所要 生体データが国家DBに既存 → 3営業日 / 新規 → 7営業日

■ 手続ステップ

  1. 出入国管理局・省公安窓口を訪問、整理番号を取得
  2. 顔写真を窓口で撮影
  3. 書類提示(パスポート + TRC + 様式 TK01)、情報提供フォーム記入
  4. 生体データ(指紋)を提出
  5. 申請を当局へ提出
  6. 結果を VNeID アプリ / 電話 / メールで受領 → アカウント有効化
レベル 1 レベル 2
内容 基本情報のみ(ID番号・氏名・生年月日 等) 指紋生体認証を追加
登録方法 VNeID アプリで可 本人が窓口へ出頭(対面必須)
用途 限定的 銀行認証・公共サービス・eTax Mobile 等
⚠ 重要  VNeID レベル 2 は TRC 保有が絶対要件。非居住者(在留カードなし)・短期ビザのみの外国人は登録不可。レベル 2 は対面のみ(アプリ完結不可)。

所要期間まとめ

ステップ 単体所要 累計目安
① WP(書類準備含む) 約 1〜2 ヶ月 1〜2 ヶ月
② TRC 約 5〜10 営業日 + 約 2〜3 週間
③ VNeID レベル 2 約 3〜7 営業日 + 約 1〜2 週間
合計(WP ルート) 約 2〜3 ヶ月
合計(WP 免除ルート) 約 1〜2 ヶ月(短縮)
⭐ 実務上の含意  設立直後に外国人 LR が VNeID レベル 2 を取得するには 2〜3 ヶ月を要する。インボイス発行が早期に必要な場合は、まず免除ルート(第 3 章)で e インボイス登録を完了し、その後に本フローを完了して生体認証へ移行する 2 段階アプローチが現実的。

法定代表者の居住要件(企業法 第12条)

e インボイスとは別に、企業法上、最低 1 名の LR が VN に居住する必要がある。事業開始時点で、この要件を満たす体制が必須。

規定 内容
企業法 第12条第3項 常に最低 1 名の LR が VN 居住
単独 LR VN 居住者でなければならない
非居住者を LR に 単独不可。VN 居住 LR をもう 1 名置く(複数 LR)
30 日超の不在 単独 LR が 30 日超 VN 不在 + 代理人未指定 → 新 LR 任命義務
⚠ 重要論点  事業開始時点で VN 居住の LR が 1 名以上必要。本国在住者のみを単独 LR とする構成は企業法違反となり得る。複数 LR 構成(VN 居住者 1 名 + 本国在住者)を検討すること。e インボイス生体認証の観点からも、VN 居住・TRC 取得が容易な人物を LR にするのが有利。

実務チェックリスト

# 確認・アクション項目 時期
1 所管省税務支局へ外国人 LR の免除手続を照会(解釈 A/B 確定) ERC 取得前
2 LR 構成が企業法 第12条(VN 居住 LR 1 名以上)を満たすか検証 設立準備時
3 ERC 申請・取得(税コード付与) 設立フェーズ
4 デジタル署名・銀行口座開設・税コード有効化 ERC 直後
5 e インボイス登録申請 + 外国人 LR 免除手続 インボイス発行前
6 e インボイス発行体制テスト 登録後
7 外国人 LR の WP 免除該当性を確認(政令 219/2025) 設立フェーズ
8 WP / WP免除 → TRC → VNeID レベル 2 取得(第 6 章フロー) ERC 後 数ヶ月
9 生体認証へ移行(免除の本対応) VNeID L2 取得後

出典・参考リンク

  ・通達 3078/CT-NVT(税務局、2026-05-15)

  ・政令 70/2025/NĐ-CP(e インボイス、政令 123/2020 改正)

  ・政令 219/2025/NĐ-CP(外国人労働者、2025-08-07)

  ・政令 69/2024/NĐ-CP(電子身分認証、様式 TK01)

  ・企業法 2020(法令59/2020/QH14)+ 改正法 76/2025/QH15

 

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